1年目で直面する月商の壁とは
―美容皮膚科市場の現状について、お聞かせください。
高先生:市場の成長率は安定しており、今後も年平均成長率104%から105%くらいで成長し続けると予測されています。そしてこれからも競合が増え続け、勝ち切るのが難しくなってくると考えています。
美容皮膚科の年商については、メディカルフォースの調査によると、月商999万円未満が約25%、1000万円から1500万円が約18%、1500万円以上が約25%という分布です。競争が激化することにより、月商1500万円のクリニックの割合はさらに低下すると思います。
―ちなみに、開業時の立地選定で注意すべきポイントは何でしょうか?
高先生:ライバルがいないエリアを選ぶことです。例えば銀座のような激戦区では、よほど付加価値がなければ厳しい状況です。一方で、ライバルが少ない地域であれば比較的、集患しやすいです。ただし地方での開業は、医師の採用が難しく、美容経験のある優秀なナースも少ないというデメリットもあります。
―開業される方向けに、クリニックの成長に必要な心構えをお聞かせください。
高先生:最初は、集客やマーケティング、ブランディング、人事などすべてのポジションを自分でやりましょう。保険診療での開業とは異なり、自費診療での開業はビジネスの立ち上げです。マーケティングの分かる事務長を雇って、自分は臨床だけすればいいという考えがありますが、それでは美容皮膚科経営は絶対に成り立ちません。すべて自力でクリニックを運営して、それぞれ分野のやり方がやってわかってきた段階で方向性を決め、スタッフに仕事を任せるとスムーズです。
―新規開業時の大きな課題である集患には、どのように取り組めば良いのでしょうか?
高先生:最初の1年は、最も得意な集客チャンネルを見極め、一つに絞ることが大切です。集客チャネルは、Instagramもあれば地元の看板もあり、ホットペッパービューティーなど美容皮膚科の集客チャネルはたくさんあります。3年目、4年目になったら全部やらないといけませんが、その他にもやるべきことが多い1年目は、1つに集中してください。
話すことが得意だったらInstagramライブをする、数字を分析するのが得意だったら媒体の担当者と毎週ミーティングをして施策を考えるといったように、一番得意なものに全力投球しましょう。
―売上のボトルネックとなる部分を見極めるには、どうすればよいのでしょうか?
高先生:売上は「来た顧客の数×単価×リピート回数」で決まります。顧客については、アンチエイジングメインのクリニックにしたいといった開業する時のコンセプトに合った患者様が来るはずです単価は商品で決まるため、クリニックの顧客層によって自ずと価格帯は絞られます。
多くの人が見落としがちなのがリピート回数です。リピーターが少ないと、広告費をたくさん使って新しい患者様を呼んでも売り上げが伸びず、穴の開いたバケツのような状態になってしまいます。大切なのは穴をふさいでリピート率を高めることです。
壁を乗り越えるための具体的な方法とは
―新規顧客をリピーターに育てるために、最も重要なポイントは何ですか?
高先生:商品力を磨いて顧客満足度を高めることです。広告を見て来店したとしても、商品が良くなければ顧客満足度が低く、リピートしてもらえません。美容皮膚科における顧客満足度は、基本的に治療の効果で決まります。治療の効果が高ければ、自ずとリピーターになってくれます。
当院では商品力の向上に取り組んだ結果、リピーター率が大幅に上がりました。2023年3月の時点では新規顧客が7割、既存顧客が3割でした。これではいけないと考え、リピート率向上に取り組んだ結果、2024年には既存顧客が7割と逆転しています。
―リピーターが7割はすごいですね。メニュー設計についてどのようにされているかお聞かせください。
高先生:当院で一番売れている「サーマジェン全顔1回」は、新規顧客が8割です。2番目人気の「サーマージュ全顔+顎下1回は新規が半分になり、3番目の「サーマジェン5回セット」はリピーターが9割です。これは1回やって効果が良かった人が、次は別の部位も受け、さらにコース契約へと進んでいくためです。積極的にコースを販売しているわけではなく、患者様が満足した結果、自然にリピートするような設計になっています。
―リピーター向けの割引の設定はどのようにされているのでしょうか?
高先生:新規顧客獲得に必要な広告費の分を割り引きしています。ホットペッパーでの集客にかかる費用は約15%なので、15%以上の割引が目安ですね。広告費を払うよりも、来院してくれる患者様にサービスするのをおすすめします。
―わかりやすいですね。地域によって同じ価格でもリピートされないケースがあります。その点についてはいかがでしょうか?
高先生:東京と地方の経済格差を踏まえ、リピートできる価格設定をしましょう。月の家賃が6万円の人が、1回7万円の治療をリピートし続けるのは厳しいです。自分の顧客がどういった生活をしているかを、不動産サイトなどでリサーチして価格に反映させることが大切です。
―価格帯の設定について、どのようにお考えですか。
高先生:一昔前は高価格帯を目指す人が多かったのですが、これは大きな誤りです。他のクリニックと同じ機械や材料を使用しているなかで、高価格を納得してもらうのは非常に難しいのです。一方で、低価格帯のクリニックは原価を下げる努力が必要で、これも非常に難易度が高いです。おすすめは中価格帯です。内装も適度にきれいで接遇も丁寧、そして患者様の予想よりも3割程度安い価格設定で施術が受けられるクリニックをイメージしてください。
成長に向けたPDCAサイクルの実践
―リピーターを増やしてクリニックを成長させるためにどのような取り組みをされましたか?
高先生:KPIをリピート率に設定しつつ、既存のお客様からの紹介数も重視し、顧客満足度が上がるようPDCAを回しました。
このような取り組みを始めた背景には、広告費の増大があります。コロナ前は、単価2万円のメニューの患者様を1人集客するためにかかるコストは5000円ほどでした。しかし、コロナ後はコストが3万円くらいに増加し、リピートしてもらわないと赤字が出るようになってきたんです。
―なるほど広告費の値上がりは大きいですね。具体的にどのような施策をしたのでしょうか?
高先生:まずは、顧客の導線である問い合わせ・予約・来院・契約・リピートのどの部分がボトルネックとなっているかを見極めました。離脱のタイミングが4つあるので、それぞれの離脱を最小限にする必要がありますが、現場のカウンセラーが全ての穴を埋めるのは非効率的です。
そこで、カウンセラー経験のあるメンバーを集め、問い合わせ・予約とリピートの数値を最大化することに特化した「インサイドチーム」を設置し、次回の予約をしなかった患者様にアプローチするといったリテンションを任せています。
リテンションで重視しているのは、パーソナライズされたコミュニケーションです。例えば、医師やナースがカルテに「内出血を心配していた」などの申し送り事項や仕事の状況などさまざまな情報を記録します。
インサイドチームはその情報を基に、「昨日はいつもより強いレーザーを照射しましたが、大丈夫でしたか?」といったように、個別のLINEメッセージを送ります。
パーソナライズされた対応が信頼や安心を生み、顧客満足を高め、リピーターの獲得につながります。また、必要のない患者様にニキビ治療をおすすめするといった的外れな宣伝をしなくなり、顧客が離れるのを防げるのも大きなメリットですね。
―他に効果が大きかった施策はありますか?
高先生:ナースの指名制度です。ナースの指名料を全て担当ナースに支払うようにしました。施術の技術が高く丁寧なナースほど、顧客満足度が高く指名が多いのですが、それまではインセンティブとして反映されていなかったんです。制度を導入してから、ナースがこれまで以上に努力するようになり、顧客満足度の向上につながりました。
―顧客満足度を向上してリピーターを増やすのが重要だとよくわかりました。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!